[2026年06月配信]
インタビューの様子を掲載しました。
ご興味のある方は下記URLをご参照ください。
http://www.itsapoot.jp/mailmaga/interview202606.html
今回は四肢に重度の障がいのある作業療法士の黒澤淳二(クロサワ・ジュンジ)さんに
ICT機器を活用した障がい者の日常生活と支援の在り方についてインタビューをしましたので、
その内容を紹介します。
「普段の姿を見てもらった方がいいと思いまして。」
私たちが黒澤さんの自宅に伺うと、ベッドのようにリクライニングされた車いすに乗った黒澤さんが迎えてくれました。
黒澤さんの顔の周りを普段使用されているICT機器が囲み、様々な機器を駆使しながら
日常生活や情報発信などを行っている様子が窺(うかが)えました。
黒澤さんは、2020年12月のバイク事故でC4頚髄(けいずい)の損傷による四肢麻痺及び体幹機能障がいがあります。現在は主に指導者として医療法人に勤務し、支援者などにアドバイスを行う傍ら、作業療法士養成課程で使用される教科書の執筆にかかわるなど、幅広く活躍されています。
日常生活では障がい福祉サービスの居宅介護ホームヘルプの支援を受けながらスマートスピーカーや口で操作するマッチマウスなどのICT機器を使い、一人暮らしをされています。
「マッチマウスの使い方は入院中に担当作業療法士から指導を受けました。
とは言え、私も作業療法士として使い方を知っていましたので、すぐに使えるようになりました。
勤務先では職員はマスクを着用しなければならないことから、顎で操作できるマウス『ミレット』を使用して業務を行うなど、場所によって機器を使い分けています。」(黒澤さん)
もともと機械を触ることが好きで、BDアダプターを作るなど、支援機器の勉強会にも積極的に参加され、ICT機器を活用した支援の在り方について情報収集されていたそうです。
「私が勉強会に参加していたころは、手作りの機器を使った支援が主流でした。今は一般的に製品化されて売り出されているものも多くあります。そのような機器を掘り出して活用できたらいいかなと思っています。」(黒澤さん)
エアコンやテレビの操作、カーテンの開け閉めなどはGoogle Home(スマートスピーカー)とスイッチボットとスマートリモコンを接続して声で操作できるように設定し、自由に使える環境を整えています。
「設定さえ整えば、いくらでも想像力を働かせ、文章や資料を作成したり、外部とコミュニケーションを取ったり、たいていのことができるので、とても助かっています。」(黒澤さん)
このようにICT機器を使いこなされている黒澤さんですが、障がい者として機器導入及び継続利用にあたっての課題を指摘されています。
「導入については、容易に自宅で試す機会と時間がないことが課題だと思います。
例えば1週間、実際に機器を使ってみて初めて、日常生活を送るうえで使えるものかどうか判断することができます。ただ、1週間使った後にレンタル機器を持って帰られると、継続性が失われてしまいます。
1週間使えたらさらに1週間、1か月…と期間を延ばし、最終的には、介護保険の車いすやベッド、あるいは医療保険の呼吸器のようなレンタル及び保守点検サービスのような制度があればよいのかもしれませんが…。その経済的裏付けが乏しいかと思います。
また、業者によっては機器の設置はできるが、アフターフォローが難しいところもあります。幸いにも私は職業柄機器を設置してもらえれば、あとは自分で使うことができますが、そうでない人も多くいます。
機器購入後の支援を充実させていく体制作りも必要だと思っています。」(黒澤さん)
さらに導入後の課題として、地震など災害時に使えなくなる心配があるだけでなく、日常的に身体やパソコンの位置がずれたり、電源を失ったりして機器が使用できなくなることが気がかりだと思われています。
「災害時には、生命維持(エアコンなど)の電源が優先となり、創造的な取り組み(パソコンやタブレット、コミュニケーション機器)への電力利用は後回しになります。
以前は体調が安定せず、緊急入院を何度か経験しました。そうなると、 病院に自前の機器は持ち込めず、1・2週間病院の天井を眺めるだけの つらい時間を過ごすことになります。
このようなことを考えると、災害時に備えてポータブル電源を導入しておく 必要があると思います。という私もまだ検討中で導入はしていませんが…。」(黒澤さん)
ヘルパーさんに機器の位置などの調整をお願いしづらいことも課題だと話します。そこで、できるだけ同じ環境で機器が使えるように、あらかじめ既定の高さや角度、長さで機器をアームに固定しているそうです。
「多分、多くの方がそうされていると思いますが、あらかじめ機器を固定することにより、アームと車いすの位置や角度を調整するだけでいつもほぼ同じ環境で使うことができます。
アームに固定している機器にうっかり当たると角度などが変わってしまうため、ヘルパーさんには気を付けてもらうようにお願いしています。
一度ずれた物を元に戻すことは大変ですし、たとえ元に戻してもらっても以前と何かが違う、以前の方がよかったと思ってしまいます。」(黒澤さん)
さらに黒澤さんが指摘するのは、導入と故障・スペア確保の問題です。
これまでマッチマウスを2台、ミレットを2台入手したため、経済的負担が大きかったと話します。
障がい者のICT利用においては、支援者の存在が欠かせないとしつつ、支援者側の取り組み体制にも多くの課題があると指摘します。
以前は、作業療法士として障がいのある子どもたちにパソコンに慣れてもらうことを目的にゲームや文字入力の練習をするなど、様々な支援をしていた黒澤さん。勉強会に参加する中で、多方面の方とつながることができ、人脈も築き始めていたそうです。
しかし、本業が忙しくなるにつれ、情報収集がおろそかになり、関連機関とのつながりも薄れていったと話します。
「情報を収集していた時は、ICT機器について他の作業療法士よりは知っていたし、得意だと思っていました。しかし、勉強会などに参加できなくなると、疎くなり、関係者とも疎遠になっていきました。
機器はドンドン進歩していくので、積極的に勉強しておかないといけません。とは言え、常にアンテナを張り続けることは難しいことです。
作業療法士はある意味何でも屋ですが、なんでもカバーし続けることは難しい。『ここに行けば詳しい人に会える』『ここに相談すれば答えが得られる』といった専門家同士がつながるネットワークづくりが重要だと思います。
これがまさに大阪作業療法士会のICT推進委員会が行っているような取り組みです。」(黒澤さん)
AIが私たちの身近になった今、AIを活用することで新たな可能性が見えてくると黒澤さんは考えています。
「今『AIが友達』という人が増えていることが大きく取り上げられ、問題視されています。しかしAIが障がい者の思いを可視化できるのであれば、AIのいい面にも光が当たって、そこに新たな価値が生まれてくると思うんです。」(黒澤さん)
最後にICT機器を活用した障がい者の就労における可能性について黒澤さんがコメントを寄せてくれました。
「現代社会において、生産性を考えたとき、創造的な活動でないと経済的な自立は困難だと思います。
しかし、その一方で見方を変えると、障がい者が生きて行くために必要な医療費や福祉にかかる費用(ほとんど税金ですが…)を考えると、結果として、この分野においてかなりの雇用を生んでいるともいえます。
かつては金食い虫と揶揄(やゆ)されたりもしましたが、共生社会の創造ということに価値をおけば、素晴らしい労働力とも考えることができます。
そのように考えると、ICT機器を活用することで、支援する側・受ける側のそれぞれが、競争関係にあるのではなく、隙間や余白を埋め、創造的な活動を創出できる可能性が生まれるように思います。」(黒澤さん)
インタビュー中、終始笑顔で話をしてくださった黒澤さん。
節々で支えてくださっている多くの方々へ感謝の言葉を述べられ、黒澤さんの前向きなお人柄とその黒澤さんを支えられている多くの方々の暖かい人の輪を垣間見ることができました。
また、笑顔とともに「ええタイミングで障がい者になれたからよかった。」という言葉が胸に刺さりました。
作業療法士として支援する側から支援を受ける側に変わった立場。その中で数えきれないほどの困難に一つずつ立ち向かい、周りの人の助けを得ながら自力で乗り越えられたからこそ発せられる言葉に、一人の障がい者として、励まされました。
そして、黒澤さんが想像する人型ロボットの導入や「アイアンマン」のようなパワースーツにより自由に活動することも科学技術の発展により、意外に早く現実的なものとなるかもしれません。期待したいと思います。
本文は以上です