在宅就労マッチング事業担当者インタビュー

―― AI時代だからこそのテレワーク ――

[2025年5月配信]

今回は、大阪府ITステーションとお付き合いのある社会福祉法人 大阪市障害者福祉・スポーツ協会 中津サテライトオフィスで在宅就労マッチング事業を担当されている安藤 正(あんどう ただし)さんに
障がい者の在宅業務の現状と今後の課題などについてインタビューをしましたので、その内容を紹介します。

 

中津サテライトオフィスは平成5年に社会福祉法人大阪市障害更生文化協会の授産施設として開設されました。
その後、法人名称や体制の変更を経て現在は、障害者総合支援法に基づき、就労意欲を持ちながらも一般企業にはなかなか務めることのできない障がいのある方を対象に就労支援A型(雇用型)とB型(非雇用型)の事業所を運営しています。
また、これらの事業のほかに障がいのある方が自宅に居ながら受託業務を行う在宅就労マッチング事業を実施しています。

安藤さんは、在宅就労マッチング事業の主担として、登録されている70名以上の障がいのあるテレワーカーに受託した業務を割り振り、テレワーカーが効率的に作業できるようにサポートしています。

主な受託業務は、音声起稿(テープ起こし)、データ入力、ホームページ作成・更新、動画編集です。

 

安藤さんは話します。

「業務全体の半分以上を音声起稿が占めています。
以前ITステーションで開催されていた音声起稿師養成講座の1・2期生の修了者が一番のやり手で、仕事に対するモチベーションが高く、熱心に取り組んでくださっています。
カセットテープに録音された会議など、音質が悪いものも起稿されていた経験があり、
音が聞こえない時間や理由などもきちんと書いて納品してくださいます。
シンポジウムや特別講座のように話者が一人の場合は、シンプルで比較的取り組みやすいですが、部会など複数名が参加している会議などでは、話者の特定が難しいですよね。
ベテランの音声起稿師の方々は、それらをきちんと聞き分けて文字に起こしてくださいます。よく聞き分けられるなぁと感心します。」

 

音声起稿師たちの高い技術が口コミで広がり、新規の顧客獲得につながることもあるそうです。

「Zoomなどのオンライン会議であれば、AIによる議事録や要約の作成はかなり役立ちます。
しかし、話者の声がデータベースやクラウドに登録されているわけではないため、
対面形式の会議の録音データから話者を特定することはAIにはできません。これは人間にしかできないのです。
またAIはわからない単語があるとその後の文章がつながらず、脈絡のない原稿になります。

かつてAIが起こした原稿を修正する仕事の依頼がありました。
その依頼は、AIが元となる原稿をおこしているからという理由で、単価を半額に設定するよう求められました。
しかし、AIが起こした原稿とテレワーカーさんの起こした原稿を比較して内容を確認していただいたところ、人の手で起こした原稿の方が正確で質が高いことが認められました。
それ以来、すべて人の手で原稿を起こしてほしいと依頼が入るようになりました。
正確で質の高い原稿を起こしているかぎり、今のところ音声起稿の仕事がなくなることはないと思っています。」(安藤さん)

 

このように音声起稿の需要がある一方で、データ入力やホームページの作成・更新の業務依頼数は減っています。
「データ入力は作業が単純だからこそ、単価が安くなります。
ホームページは、作業量や作業期間の割には単価が安いうえ、常に最新技術を身に付けておかなければ、お客様の要望に応えることができません。」(安藤さん)

そんな中、近年少しずつ受注が増えているのが動画作成です。
「本格的な動画作成ソフトを導入するとなると多額の投資が必要になるため、
まずは無料の動画ソフトを使い、動画編集の技能を身に付けて、作業に慣れてから投資するように促しています。」(安藤さん)

 

このように様々な業務を受注している在宅就労マッチング事業ですが、
安藤さんが業務を割り振るにあたり、心がけていることや気を付けられていることなどについて聞きました。

「テレワーカーとして登録される際に、その方の生活リズムやパソコンの使用環境、趣味、嗜好など様々なことを、会話を通じて探ります。
気になったことを細かく調べる人か、それともめんどくさがりか。どのような業務に興味があるのか。個人の特性を割り出すようにしています。
作業を割り振る際には、事前に得た情報をもとに、その方の生活リズムや納期などを考慮し、仕事を割り振っています。
安定した生活リズムは薬ですから、それを乱してまで仕事をする必要はないと思っています。

初めて仕事を依頼する場合は、業務内容を説明し、取り組む意欲があるかどうか、意思確認をしたうえで、依頼するようにしています。
私もテレワーカーと一緒に仕事をしているという思いでいますので、業務を依頼するにあたっては、コミュニケーションを重視しています。
コミュニケーションが取れない人とは仕事はできませんから業務を依頼することもできません。

厳しいようですが、テレワーカーはこちらから見えない環境で働いているからこそ、言葉のキャッチボールができ、お互いに信頼関係を気づくことが重要なのです。」(安藤さん)

 

テレワーカーへの登録は中津サテライトオフィスで受け付けています。

「テレワーカーとして登録を希望する方には、テレワーク業務の実情をしっかりと説明します。
収入が安定しないこと、定期的に業務依頼があるわけではないこと、テレワーク業務だけでは生活が成り立たないこと。
また、各業務の単価や業務量、業務の概要についても細かく説明します。
これらの話を聞き、『それでも一緒に仕事をしたい』と思ってくださる方に登録をお願いしています。
期待されるより、実情を理解されたうえで一緒に働いていただきたいと思っています。」(安藤さん)

 

長年在宅就労マッチング事業に携わってこられた安藤さんですが、現在直面している課題があるそうです。

「今、中心となって働いているのはベテランのテレワーカーの方々です。その方々が年齢を重ね、少しずつリタイヤされる方も出てきています。
このままでは先細りしてしまいます。まるで崖に向って走っているようです。
まずは、テレワーカーのスキルアップをはかり、受託業務が遂行できるようにすること、
そして、新しいテレワーカーを集められるような魅力ある事業にしていかなければならないと思っています。
また、一般の方にも広く興味を持ってもらい、受託業務を増やしていく必要があると思っています。
コロナ禍で自宅で働くことが当たり前になり、在宅業務を後押ししてくれている気がします。
ChatGPTで仕事の前処理をし、残りの業務をテレワーカーに依頼するなど、
AIを味方につけられるような仕事の開拓をしていかなければならないと思っています。」(安藤さん)

「コミュニケーションがとれて、何にでも興味を持ち、挑戦する人とともに仕事を続けたい!」
最後に安藤さんが熱く話してくれました。

 

インタビューを通じ、安藤さんがきめ細やかに各テレワーカーの状況を把握し、丁寧にサポートしながら業務を進められている様子が伝わってきました。
テレワーカーと密に連絡を取れる人間関係を気づき、必要に応じてサポートをする。
障がいがあるからといって特別扱いをするのではなく、一人の労働者としてテレワーカー一人一人に向き合って業務を割り振っているという話を聞き、
一人の障がい者としても「一人の人間」として普通に接していただいていることに温かみを感じました。
「私はここで働いていていいんだ」そんな安心感があるからこそ、ベテランのテレワーカーの方々も長期間、安藤さんとともに働かれているのだと思いました。

 

今回もインタビューの様子を掲載しました。

ご興味のある方は下記URLをご参照ください。

http://www.itsapoot.jp/mailmaga/interview202505.html

 

【関連サイト】

社会福祉法人 大阪市障害者福祉・スポーツ協会 中津サテライトオフィス

http://www.v-aid.org/

 


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