大阪・関西万博レポート第一弾 万博会場を一人で歩いてみた!

[2025年6月配信]

今回は4月13日に夢洲で開幕した大阪・関西万博に行き、視覚障がい者当事者として、
視覚障がい者向けのアプリや機器を試してみましたので、その内容を紹介します。

 

第一弾は、「あしらせ」、shikAI(シカイ)、ナビレンスを使用した会場内の移動について紹介します。

 

「あしらせ」は靴の中に機器を装着して使用するインソール型のデバイスです。

専用の「あしらせ」アプリと連携して、足の甲、側面、かかとが振動することで、進行方向をナビゲーションします。

両足の甲が振動しているときは直進、

片足のすべてが振動しているときは振動している足の方向に曲がる、

かかとが振動しているときは後方に進む、

と振動部を感じ取ることで進む方向がわかるように設計されています。

また、曲がり角や目的地が近づくにつれ、振動間隔が早くなり、曲がり角や目的地に近づいていることを知ることができます。

これらの指示はすべて靴の中に挿入したデバイスから行われるので、歩行中にスマートフォンに触れる必要がなく、白杖で足元を確認し、耳で周囲の情報を得ながら安全に歩行することができます。

 

今回初めて「あしらせ」を使って歩くため、実際に万博会場で使用する前に練習として
大阪府ITステーションから大阪上本町駅までの約800mを歩いてみることにしました。

 

恥ずかしながら大阪府ITステーションから大阪上本町駅までの地上を通る道のりを知らない私。

果たして無事に到着することができるのか。不安を抱えながらの出発です。

 

まずは、「あしらせ」のアプリ上で行先とルートを設定します。その後、スマートフォンは鞄の中に入れ、出発です。

両足全体がブーッと3秒ほど振動すると、ナビゲーション開始の合図です。

その後進むべき方向が指示されます。今回は、左足がブブ、ブブと振動し、左に進むように指示がありました。

左を向き、まっすぐ歩いていると、「正しいルートを進んでいるため、直進振動を開始します」と
スマートフォンから音声が流れ、両足がブーッと振動しました。

 

現在いる地点から次の曲がり角や目的地までの距離が遠い時は7秒に1回ほどブーッと両足の甲が振動し、曲がり角までの距離が近づいてくると5秒に1回、3秒に1回と振動間隔が短くなります。

両足の甲が短くブブ、ブブと振動すると、曲がり角や目的地が近いことを示しています。

いよいよ角を曲がるときには、曲がる方向の足がブブ、ブブと振動するので、その指示で曲がります。

 

角を曲がり、正しい方向に進んでいると再び両足の甲がブーッと振動し、進行方向があっていることを知らせます。これを繰り返し、目的地を目指します。

 

目的地に着くと、ブーッと3回両足全体が振動し、到着したことを知らせてくれます。

目的地の方向を確認するには、片一方の足で軽く地面を2回トントンとたたきます。

これにより、どちらか片一方の足、両足の甲、両足のかかとがブブ、ブブと振動します。

ナビを終了する場合は、再度片一方の足で軽く地面を2回トントンとたたきます。

 

慣れない道を歩いたので、出発時に示された所要時間より時間はかかりましたが、白杖と自分の耳で周囲の安全を確認しながら、無事に大阪上本町駅に到着することができました。

「あしらせ」の指示に従って歩いたので、どの道をどう通ったのかさっぱり分かりませんでしたが、確実に目的地に到着していることに大いに感動しました。

 

また、単独歩行に慣れていれば、初めての道でも壁沿いに歩く、歩道を歩く、点字ブロック沿いに歩くなど、公道には目印が多数あることから、空間把握も比較的しやすく感じました。

何より、スマートフォンの音を聞く必要がなく、足に伝えられる振動だけを頼りに歩ける点が魅力です。

直進しているときは一定の間隔で両足の甲が振動する。間違った道を進んだ場合には両足全体がブーッと振動して警告を発したうえで新たに進む方向を教えてくれる。など、直観的にわかりやすく、きめ細かい指示がある点も安心感があります。

「これならどこでも行けるかも!」そんな自信がわきました。

 

「あしらせ」のナビにも慣れ、知らない道でも歩ける自信がついたところで、
いざ万博会場の夢洲へ。

 

今回は、東ゲートから大阪ヘルスケアパビリオンまで行ってみることにしました。距離は170m、曲がり角は0回、所要時間は約3分です。距離も短く、まっすぐ進むだけのようですので、迷うことなく行けそうです。さて、無事に到着できるでしょうか。

 

スタートすると、かかとが振動し、後方に進むよう指示がありましたので、180度向きを変えて直進します。公道と異なり、壁も、歩道も、電柱もない広い会場。

いきなり方向感覚を失い、空間を把握することが難しい状況になりました。

まっすぐ歩いているのか、この道なき道を歩いていてよいのか、どこに向かっているのか。そもそもまっすぐ歩くことが難しい。ちょっぴり不安です。

 

しばらく歩くと、両足の甲がブーッと振動し、進むべき方向が合っていることを知らせてくれました。

これで不安が半減です。白杖で前方と足元の安全を確認し、耳で周囲の情報を聞き分け、回りを行き交う人の流れを感じながら進みます。

 

歩いていると、点字ブロックを見つけたので、点字ブロック沿いに歩くことにしました。
両足の甲がブーッと振動し続けており、「あしらせ」も進んでいる方向が合っていると案内しています。これは何となく目的地に到着できるのでは?

 

足を進めると点字ブロックが曲がっていたので、それに沿って私も歩き続けました。
「あしらせ」からも両足の甲が振動し、進行方向が合っているという案内があったので、もう安心です。

と、思ったのもつかの間。数メートル進むと、ブーッと両足全体が長く振動し進行方向が誤っているとの案内がありました。

 

後ほど、同行した職員に聞いたところ、私は目印のない広い空間の中で方向感覚を失い、まっすぐ進むべきところを、斜め左方向に進んで行っていたようです。

このような広い会場の中の道なき道を進んでも、位置情報をもとに利用者の進行方向を検知し、正しいルートに導いてくれる点に驚きました。「あしらせ」の空間把握は私より素晴らしい!と思ったぐらいです。

 

さて、気を取り直して、再度大阪ヘルスケアパビリオンを目指します。

両足のかかとが振動し、後方に進むように指示がありました。そして、来た道を戻ると、今度は左に進むように指示がありました。

どうやら出発地点から斜め左に進み、関係のない点字ブロック沿いに進んだことが間違いだったようです。「あしらせ」の指示通り、まっすぐ進み続けるのが正解だったようです。

普段の癖で点字ブロックを頼りにしてしまいましたが、ここは「あしらせ」を頼りにしないといけなかったところです。

 

しばらくすると、今度は「あしらせ」の指示通り進んだつもりでしたが、両足全体が振動し、ルートを再検索するという案内がありました。

再び向きを変え「あしらせ」の指示に従って歩くと、ついに目的地の大阪ヘルスケアパビリオンの前に到着したとの案内がありました。ここまでの所要時間は約15分。

迷いながらもなんとか目的地に到着することができ、驚きとともに達成感がありました。

 

目的地に到着したら、入り口を探さなくてはなりません。

「あしらせ」は位置情報(GNSS)を利用しているので、屋内の入り口にピンポイントで誘導することが難しいのです。 そこで、万博会場では一部のパビリオンやお手洗いの入り口にナビレンスコードが貼られており、入り口まで誘導できるようになっています。

「あしらせ」は万博会場ではナビレンスアプリと連携しているため、目的地に到着した際に、あしらせアプリから直接ナビレンスアプリを起動し、近くにあるナビレンスコードを読み取ることができます。さて、大阪ヘルスケアパビリオンに到着したでしょうか。

 

ナビレンスコードを読み取ると「いのちの湧水(いずみ)」についての案内がありました。大阪ヘルスケアパビリオンではありません。

そこで、大阪ヘルスケアパビリオンのナビレンスコードを探すために周囲を散策しました。

すると、「35m先、大阪ヘルスケアパビリオン」と読み上げるナビレンスコードを見つけることができました。

 

「あしらせ」とナビレンスが連携することにより、入口まで誘導できるようになります。

それぞれのアプリや機器が持つ強みを生かし、上手に使いこなすことにより、自力で目的地までたどり着くことができるというわけですね。

 

また、あしらせアプリとナビレンスアプリを連携させることで、「あしらせ」を使用しながら万博会場を歩いていると、自動的に道中にあるナビレンスコードを認識し、ナビレンスコードに含まれる情報を音声で聞くことができるようになっています。

つまり、歩きながら周囲にどのようなパビリオンなどがあるかということを知ることができます。目が見えている人が周囲を見、情報を得ながら歩く感覚に似ているのではないでしょうか。

一つ残念なことは、すべてのパビリオンや休憩場、お手洗いなどにナビレンスコードが貼られてはいないことです。 そのため、得られる情報はナビレンスコードがある場所に限定されます。

 

このように、便利なナビレンスにも課題があります。

自分の周囲やナビレンスコード周辺に多くの人がいると、コードを読み取ることができません。

例えばヨルダン館周辺でナビレンスコードを探してみると、人通りが多く、認識することに時間がかかりました。

周辺にナビレンスコードがあるということを知っていれば、辛抱強く探すことができますが、知らなければ、ナビレンスコードがないと思い込み、あきらめてしまいそうです。

 

そこで、確実に目的地に行ける方法として、shikAIを試してみました。

shikAIは点字ブロックの警告ブロック上に貼られた二次元コードを読み取りながら道案内するものです。

線状に続く誘導ブロックには二次元コードが貼られていないため、その間は案内がありません。
そのため、警告ブロック間の距離が長いと少し不安になることもありますが、点字ブロック沿いに歩いていれば確実に目的地に到着します。

 

まず、大屋根リングからヨルダン館に向かいます。距離は280m、経由地は2か所です。小学生の列にぶつかりそうになったり、人ごみを避けたりしながら、点字ブロック沿いに歩いていると目的地に到着しました。

「目的地に到着しました。目的のパビリオン付近に到着しました。」との案内が流れ、ガイドは終了しました。

 

「目的のパビリオン付近?」。

万博会場では、すべてのパビリオンの入り口の前まで確実に点字ブロックが敷かれているわけではありません。

そのため、ヨルダン館の場合、ヨルダン館に一番近い点字ブロックの分岐点(警告ブロック)を「目的地」として設定するしかなかったのです。これはshikAIの不備ではなく、万博会場内での点字ブロックの敷き方の問題です。

後ほど、同行した職員に確認したところ、「目的地」に設定された場所は、ヨルダン館を通り過ぎたところの交差点だったそうです。

 

その後、大屋根リングからお手洗いまでshikAIを使って歩いてみたところ、お手洗いの入り口まできっちりと点字ブロックが敷かれているため、迷うことなくお手洗いの入り口までたどり着くことができました。

ちなみにこのお手洗いにはナビレンスコードが貼られているため、スキャンすると、お手洗いの構造などを案内してくれます。このように目的地の入り口まで点字ブロックが引かれていれば、迷うことなく、目的地の入り口まで自力でたどり着くことができます。

 

しかし、shikAIにも弱点があります。

二次元コードの周辺や上に人が立っていると、カメラで二次元コードが読み取れないため、道案内が行われません。

また、日が暮れて暗くなると、電気がついている大屋根リングの下や街灯の下、明るい看板近くなど、比較的明るいところでは点字ブロック上の二次元コードを読み取ることができますが、街灯の少ない場所など暗いところでは二次元コードを読み取ることができず、道案内が行われませんでした。

 

その点、位置情報をもとに道案内をする「あしらせ」は夜でも確実に目的地まで誘導してくれました。

 

夜は、西ゲートを超えたところにあるフューチャー・ライフ・ヴィレッジから大屋根リング西案内板まで歩いてみることにしました。距離は740m、曲がり角4回、所要時間11分です。

出発して間もなく点字ブロックがあったので、「あしらせ」のナビを頼りに点字ブロック沿いに歩いていくと、目的地の大屋根リング西案内板に到着しました。徒歩11分のはずが、慣れない道を一人でゆっくりと歩いたということもあり、 39分もかかってしまいました。

時間帯、明るさ、気象条件に左右されにくく、安定して目的地までガイドしてくれる点が「あしらせ」の強みだと思いました。

 

今回実際に万博会場を歩いて感じたことは、「あしらせ」やshikAI、ナビレンスなど、ナビゲーションアプリを使えば目的地付近まで誘導してくれることです。

 

その中でも課題は、目的地に到着した後、どう入り口を見つけるかです。

ナビレンスコードが設置されており、そのコードを読み取ることができれば、入り口までたどり着くことができるでしょう。しかし、すべての建物にナビレンスコードが貼られているわけではありません。また、人が多かったり、周囲が暗かったりするとコードを読み取ることが難しい場合もあります。

 

そんなときはやはり「人の力」です。

万博会場を一人で歩いていると、多くの方に声をかけていただき、サポートしていただきました。

「あしらせ」といった機器、ナビレンスやshikAIといったアプリを使い、できるところは自分でする。そして、ちょっと困ったときは、周りの人に助けてもらう。

このようにICT機器と人が融合すれば、私たちの行動の幅もより広がると思いました。

 

今回「あしらせ」やshikAIを使って全く知らない万博会場を一人で歩いたことで、一つの自信につながりました。

今度は一人で万博会場に行ってみよう。きっと新しい発見があるはず!

 

【補足】

大阪ヘルスケアパビリオンについて私たちが訪れた日は、2025年1月に配信したメールマガジンで紹介した株式会社Ubitoneが出店していたので、Ubitoneのブースに行き、展示品を見てきました。もちろん、話題の人間洗濯機もありましたよ。

大阪ヘルスケアパビリオンでは、視覚障がい者向けに点字版の館内の案内図を記載した冊子を作成しています。

ご興味のある方は見てみてください。

 

今回の様子を動画で確認いただけます。

ご興味のある方は下記URLをご参照ください。

http://www.itsapoot.jp/mailmaga/banpaku1.html

 

【関連サイト】

株式会社Ashirase(あしらせ)

https://www.ashirase.com/

 

NaviLens:ナビレンス

https://www.navilens.com/ja/

 

shikAI(シカイ) -リンクス株式会社

https://www.linkx.dev/social-contribution

 


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