[2025年7月配信]
現在夢洲で開催されている大阪・関西万博に行き、前回に引き続き視覚障がい者の視点で、視覚障がい者向けのアプリや機器を試してみましたので、その内容を紹介します。
第二弾はAIスーツケースです。
AIスーツケースは、スーツケース型のナビゲーションロボットです。
見た目はスーツケースですが、ユーザーを安全に誘導するための様々な機器や機能が内蔵されています。
企業を中心に日本科学未来館や大学などが参加する組織「一般社団法人 次世代移動支援技術開発コンソーシアム」 で、実用化を目指し、研究・開発が進められています。
現在、日本科学未来館と大阪・関西万博で実証実験が行われています。大阪・関西万博では、ショートツアー(所要時間約50分)とロングツアー(所要時間約80分)の2種類のツアーの体験を予約することができます。
今回、私はロングツアーに申し込み、体験してきました。
まずは担当者から機器の機能紹介と使い方の説明を受けます。
本体は高さ約80cm(上部の機器を含めると約1m)、幅24cm、奥行き40cmの大きさで、本体上部の中央には身長に合わせて高さが調整できるハンドルが垂直についています。
スーツケースの上部の前には、RTKと呼ばれる人工衛星から得た位置情報をもとに地上の基地局を基準にして自身の位置情報をより正確に割り出す機器が取り付けられています。これにより屋外でも細かく現在地を把握し、移動することができるようになります。
スーツケースの上部中央と前方の下部には、LiDAR(ライダー)センサーがついています。これは、離れたところにある壁や柱などの障害物との距離や形を光の反射で計測・確認するものです。
これにより、障害物と機器との距離を把握することができるため、屋内でも位置情報を確認することができるようになります。
スーツケースの前方と両側面には、RGB-D(色識別と深度を同時に計測する)カメラが付けられており、歩行者などの動きや周辺の情報が確認できるようになっています。
スーツケースの上面につけられているハンドルの手を握る部分の底面に細長い長方形のタッチセンサーがついています。
このセンサーに手が触れているとスーツケースは自走し、手が離れると停止するようになっています。
ハンドルの中央よりやや前には、1本の指針がついた小さな円盤があり、この針がスーツケースの方向を示すようになっています。
直進するときは、12時、90度右に曲がるときは3時の方向を指します。ここには親指または人差し指を載せ、常時スーツケースの進行方向を確認しながら歩きます。
方向盤の先には、十字型のキーがあり、右(3時)のボタンがスタート、上(12時)がカメラから得た周辺情報の通知、下(6時)がAI通話開始ボタン、左(9時)が自走から手動走行に切り替えるボタンになっています。
では、12時のボタンを押して、周囲の状況を確認してみましょう。 「屋内で人がたくさん行き交っている」という情報が流れました。続いて、6時のボタンを押し、AI対話で近くにあるパビリオンの情報を尋ねてみました。
10秒ほど考えてから、ロボット&モビリティステーションがあること、AIスーツケースの体験ができることなどを知らせてくれました。
最後に歩くスピードを調整します。十字キーの下(6時)キーを1秒ほど長押しすると1段階遅くなり、上(12時)のキーを1秒ほど長押しすると1段階早くなります。 スピードは、0.10から1.00の間で0.05ずつ調整することができます。
いよいよロボット&モビリティステーションの外に出て出発です。
「将来的には白杖を持たなくても、スーツケースのガイドを頼りに歩けるようになることを目指している」と担当者が話してくださったので、未来を見すえて白杖を片付け、スーツケースのガイドを頼りに歩いてみることにしました。
音声対話でお勧めのロングツアーについて尋ねたところ、カタールパビリオンを通り、大屋根リングの上を散策する約30分のツアーが案内されました。
ではカタールパビリオンを目指して出発です。
スーツケースがゆっくりとヒョコヒョコ動き出します。
スーツケースは慎重派で、人をよけながら、ぶつからないように安全第一で進むので、少し動いては止まりを繰り返し、右へ左へとクネクネ動きながら目的地を目指します。
もはやどの方向を向いているのか、どこに向かって歩いているのか、私にはさっぱり分かりませんでした。
担当者によると、2mほど先に人がいることを検知したときには停止したり、さらに先に人がいる時には迂回したりと、その時の状況に応じて判断しながら動いているそうです。
迂回する場合は決められたルートから一度外れても元のルートに戻るように設計されているため、右に左にクネクネしながら歩いている印象を受けるそうです。
人を検知し、止まっているときは、時々「人を検知しました」と音声が流れ、なぜ止まっているのかを知らせてくれます。
ただ、これは止まるたびにガイドされるわけではないので、どのタイミングで知らせてくれるのかはよく分かりませんでした。
途中、同じAIスーツケースを体験されている方と鉢合わせをしました。
このような場合は、どちらか一方のスーツケースが迂回するようにプログラムが組まれているそうです。にらめっこをすること10秒ほど。私が使用するスーツケースが迂回することを選び、動き始めました。
しばらく歩くと、今度は警備ロボットに出会いました。
今回は、警備ロボットが私たちを迂回し、去っていきました。
ロボット同士の静かな駆け引きが未来の世界を体験しているようで面白かったです。
そしてついにカタールパビリオンの前に到着しました。
十字キーの上(12時)キーを押し、周囲の状況を確認します。左手に大屋根リング、右手に白い建物が印象的なカタールパビリオン、間の通路には人が行き交うにぎやかな様子が見られることが案内されました。
比較的細かく景色を描写してくれる点は、状況をイメージしやすく、ありがたいと思いました。
どの道をどう通ったのか、周りに何があったのか、さっぱり分かりませんでしたが、人にも物にもぶつからず、無事にカタールパビリオンの前についたことは、達成感があります。
続いて、大屋根リングのエレベーター前に向かいます。
十字キーの右(3時)キーを押してスタートです。スーツケースの操作にも少し慣れてきました。
アスファルトが地面に敷き詰められているため、スーツケースがヒョコヒョコと左右に揺れながら動いていきます。
慣れるまでは小さな段差があるのかと思い、少し慎重に歩いていましたが、慣れると、小さな段差と平面の違いが手で感じられるようになります。
ゆっくり歩き、ミャクミャク柄の自販機の前を通り、目的地の大屋根リングのエレベーター前に到着しました。
エレベーターに乗るときは、安全のため、スーツケースを自走モードから手動走行モードに切り替え、担当者の誘導に従って進みます。
エレベーターを降りると、高さ約12mの大屋根リングの上です。
風が強く心地よかったです。ここから光の広場の上を目指して歩きます。
スーツケースのタイヤが大屋根リングの木のつなぎ目を乗り越えるたびにコトコトと揺れます。
たくさんの木を使って大屋根リングが作られていることを肌で感じ取ることができました。
大屋根リングの上のように広い空間でも道なき道をスムーズに移動できるように事前に経路を登録したり、カメラで得た景色から経路を割り出したりして、目的地を目指しているそうです。
ひたすらまっすぐ歩いていると、ゴールまでの距離と時間が気になります。
こういう時は、音声対話で確認することができます。
まず、スーツケースの動きを止めるためにハンドルを握っている手をパーにし、ハンドル下につけられているタッチセンサーから手を放します。
続いて十字キーの下(6時)キーを押し、音声対話を始めます。
「こんにちは。私は万博会場で移動をお手伝いするスーツケースです。何かお困りのことがあれば、お気軽にお聞きください。」と音声が流れるので「目的地まであと何メートルありますか」と尋ねてみました。
「目的地は約1m先にあります。歩いて1分ほどで到着します。」とお返事が返ってきました。もう目の前だったのですね。
歩きだして30秒ほどで、「目的地光の広場上に到着しました」と案内が流れました。
具体的な距離はよくわかりませんでしたが、感覚的には4mほど歩いたでしょうか。
ここが今回のツアーの終着点です。
帰りは、カタールパビリオンを通る大回りルートではなく、ショートカットで大屋根リング沿いの道に戻り、ロボット&モビリティステーションに向かいます。
スーツケースと一緒に歩くことに少し慣れてきたということもあり、帰りはスーツケースと適切な距離感を保ちながら比較的早く歩くことができました。
スーツケースは人や物を避けながら右に左にとジグザグに進んでいきますが、進行方向を示す針に指を置いていると、常にスーツケースの進行方向がわかるので、どれくらいの角度で曲がるのか、まっすぐ進むのか、適宜知ることができ、それに合わせて体の向きを調整すると、スーツケースにぶつかることなく、スムーズに歩くことができます。
地上に降り、しばらく歩いたところで、目的地までの距離を聞いてみると、約10m先、2分ほどで到着すると教えてくれました。
ついでに曲がり角の有無について尋ねたところ、それはわからないとの返答でした。
地図情報を伝えることは少々苦手なのかもしれません。
そして、ついに目的地のロボット&モビリティステーションに到着し、約30分の体験ツアーは終了です。
スーツケースは、人を検知するとすぐに止まりますが、そのおかげで一度も人や物とぶつかることはありませんでした。
今回は歩くスピードをゆっくりに設定して歩いたため、急に止まったり、動いたりしても、なんとかついていくことができました。
通常の速度で歩く場合は、「止まる」「動く」などの案内があると、よりスムーズに歩けると思いました。
利用者によって好みが異なるため、人や物がどれくらいの距離まで近づいたら止まるかなどカスタマイズができるとより使いやすくなりそうです。
実証実験中とのことで、まだまだ課題もたくさんありますが、まずは、ショッピングモールやテーマパーク、駅構内など、公共施設などで使えるようになると私たちの行動の幅も広がるのではないでしょうか。
スーツケースが私たちを目的地まで安全に連れて行ってくれる。
そんな未来が1日も早く来ることを心待ちにしています。
今回の様子を動画で確認いただけます。
ご興味のある方は下記URLをご参照ください。
http://www.itsapoot.jp/mailmaga/banpaku2.html
【関連サイト】
一般社団法人 次世代移動支援技術開発コンソーシアム