大阪・関西万博レポート第二弾
AIスーツケース体験

現在夢洲で開催されている大阪・関西万博に行き、前回に引き続き視覚障がい者の視点で視覚障がい者向けのアプリや機器を試してみましたので、その内容を紹介します。

第二弾はAIスーツケースです。

AIスーツケースは、スーツケース型のナビゲーションロボットです。見た目はスーツケースですが、ユーザーを安全に誘導するための様々な機器や機能が内蔵されています。

企業を中心に日本科学未来館や大学などが参加する組織「一般社団法人 次世代移動支援技術開発コンソーシアム」で、実用化を目指し、研究・開発が進められています。現在、日本科学未来館と大阪・関西万博で実証実験が行われています。

大阪・関西万博では、ショートツアー(所要時間約50分)とロングツアー(所要時間約80分)の2種類のツアーの体験を予約することができます。

今回、私はロングツアーに申し込み、体験してきました。

担当者から機器の機能紹介と使い方の説明を受けました

写真:AIスーツケースの全景。小さいスーツケース型の中にセンサーやカメラ、位置情報システム、駆動装置が組み込まれています。左図の拡大版はこちら

本体は高さ約80cm(上部の機器を含めると約1m)、幅24cm、奥行き40cmの大きさで、本体上部の中央には身長に合わせて高さが調整できるハンドルが垂直についています。

スーツケースの上部の前には、RTKと呼ばれる人工衛星から得た位置情報をもとに地上の基地局を基準にして自身の位置情報をより正確に割り出す機器が取り付けられています。
これにより屋外でも細かく現在地を把握し、移動することができるようになります。

スーツケースの上部中央と前方の下部には、LiDAR(ライダー)センサーがついています。
これは、離れたところにある壁や柱などの障害物との距離や形を光の反射で計測・確認するものです。障害物と機器との距離を把握することができ、屋内でも位置情報を確認することができます。

スーツケースの前方と両側面には、RGB-D(色識別と深度を同時に計測する)カメラが付けられており、歩行者などの動きや周辺の情報が確認できるようになっています。

各センサー、カメラの情報をもとにAIが衝突回避のための行動を選択します。

 

写真:AIスーツケースのハンドル部分。操作は十字キー部分で行い、十字キーの近くにある円盤上の指針で動く方角を認知するようになっています。左図の拡大版はこちら

スーツケースの上面につけられているハンドルの手を握る部分の底面に細長い長方形のタッチセンサーがついています。
このセンサーに手が触れているとスーツケースは自走し、手が離れると停止するようになっています。

ハンドルの中央よりやや前には、1本の指針がついた小さな円盤があり、この針がスーツケースの方向を示すようになっています。
直進するときは、12時、90度右に曲がるときは3時の方向を指します。ここに親指または人差し指を載せ、常時スーツケースの進行方向を確認しながら歩きます。

方向盤の先には、十字型のキーがあり、右(3時)のボタンがスタート、上(12時)がカメラから得た周辺情報の通知、下(6時)がAIとの対話開始ボタン、左(9時)が自走から手動、手動から自動への走行切替ボタンになっています。

歩くスピードを調整します。十字キーの下(6時)キーを1秒ほど長押しすると1段階遅くなり、上(12時)のキーを1秒ほど長押しすると1段階早くなります。増減9段階づつ調整することができます。

 

【動画】AIスーツケースの説明を受けました。(15分14秒/228MB)

動画ファイルはMP4ファイルです。今回の動画では1分あたり概ね14MBという大量のデータを使用します。
通信会社との契約によっては思わぬ出費となる場合がありますので、ご注意ください。

 

[左の動画エリア内をクリックすると、動画が始まります。]

 

設定コースに従って、自走を開始します。

「将来的には白杖を持たなくてもスーツケースのガイドを頼りに歩けるようになることを目指している」と担当者が話してくださったので、未来を見すえて白杖を片付け、スーツケースのガイドを頼りに歩いてみることにしました。

音声対話でお勧めのロングツアーについて尋ねたところ、カタールパビリオンを通り、大屋根リングの上を散策する約30分のツアーが案内されました。

 

【動画】カタール館をめざしますが...AIスーツケース同士が鉢合わせ
(3分52秒/136MB)

動画ファイルはMP4ファイルです。今回の動画では1分あたり概ね34MBという大量のデータを使用します。
通信会社との契約によっては思わぬ出費となる場合がありますので、ご注意ください。

 

[左の動画エリア内をクリックすると、動画が始まります。]

カタールパビリオンを目指して出発です。スーツケースがゆっくりとヒョコヒョコ動き出します。
スーツケースは慎重派で、人をよけながら、ぶつからないように安全第一で進むので、少し動いては止まりを繰り返し、右へ左へとクネクネ動きながら目的地を目指します。

もはやどの方向を向いているのか、どこに向かって歩いているのか、私にはさっぱり分かりませんでした。

担当者によると、2mほど先に人がいることを検知したときには停止したり、さらに先に人がいる時には迂回したりと、その時の状況に応じて判断しながら動いているそうです。

迂回する場合は決められたルートから一度外れても元のルートに戻るように設計されているため、右に左にクネクネしながら歩いている印象を受けるそうです。

途中、同じAIスーツケースを体験されている方と鉢合わせをしました。
このような場合は、どちらか一方のスーツケースが迂回するようにプログラムが組まれているそうです。

にらめっこをすること10秒ほど。私が使用するスーツケースが迂回することを選び、動き始めました。

 

【動画】カタール館に向かいます。警備ロボットと対峙しました。(4分41秒/168MB)

 

動画ファイルはMP4ファイルです。今回の動画では1分あたり概ね36MBという大量のデータを使用します。
通信会社との契約によっては思わぬ出費となる場合がありますので、ご注意ください。

 

[左の動画エリア内をクリックすると、動画が始まります。]

しばらく歩くと、今度は警備ロボットに出会いました。今回は、警備ロボットが私たちを迂回し、去っていきました。ロボット同士の静かな駆け引きが未来の世界を体験しているようで面白かったです。

そしてついにカタールパビリオンの前に到着しました。

【動画】大屋根リング下を歩いてエレベーターを目指します。(4分28秒/158MB)

動画ファイルはMP4ファイルです。今回の動画では1分あたり概ね36MBという大量のデータを使用します。
通信会社との契約によっては思わぬ出費となる場合がありますので、ご注意ください。

 

[左の動画エリア内をクリックすると、動画が始まります。]

 

大屋根リングのエレベーター前に向かいます。十字キーの右(3時)キーを押してスタートです。スーツケースの操作にも少し慣れてきました。

アスファルトが地面に敷き詰められているため、スーツケースがヒョコヒョコと左右に揺れながら動いていきます。
慣れるまでは小さな段差があるのかと思い、少し慎重に歩いていましたが、慣れると、小さな段差と平面の違いが手で感じられるようになります。

ゆっくり歩き、ミャクミャク柄の自販機の前を通り、目的地の大屋根リングのエレベーター前に到着しました。

大屋根リング2階を散策

申し訳ありません。現在意匠作成中です。代替画像でご容赦ください

申し訳ありません。
現在、動画について鋭意作成中です。
出来次第掲載します。

 

エレベーターを降りると、高さ約12mの大屋根リングの上です。風が強く心地よかったです。ここから光の広場の上を目指して歩きます。

スーツケースのタイヤが大屋根リングの木のつなぎ目を乗り越えるたびにコトコトと揺れます。

たくさんの木を使って大屋根リングが作られていることを肌で感じ取ることができました。

ひたすらまっすぐ歩いていると、ゴールまでの距離と時間が気になります。
こういう時は、音声対話で確認することができます。

まず、スーツケースのハンドルを握っている手をパーにし、ハンドル下のタッチセンサーから手を放します。
続いて十字キーの下(6時)キーを押し、音声対話を始めます。

「目的地まであと何メートルありますか」と尋ねると、「目的地は約1m先にあります。歩いて1分ほどで到着します。」とのお返事。もう目の前だったのですね。

帰路に着く

申し訳ありません。現在意匠作成中です。代替画像でご容赦ください

申し訳ありません。
現在、動画について鋭意作成中です。
出来次第掲載します。

 

帰りは、ショートカットで大屋根リング沿いの道に戻りロボット&モビリティステーションに向かいます。

スーツケースと一緒に歩くことに少し慣れてきたということもあり、帰りはスーツケースと適切な距離感を保ちながら比較的早く歩くことができました。

スーツケースは人や物を避けながら右に左にとジグザグに進んでいきますが、進行方向を示す針に指を置いていると、常にスーツケースの進行方向がわかるので、どれくらいの角度で曲がるのか、まっすぐ進むのか、適宜知ることができ、スーツケースにぶつかることなく、スムーズに歩くことができます。

 

今回、試して思ったこと

スーツケースは、人を検知するとすぐに止まりますが、そのおかげで一度も人や物とぶつかることはありませんでした。

今回は歩くスピードをゆっくりに設定して歩いたため、急に止まったり、動いたりしても、なんとかついていくことができました。通常の速度で歩く場合は、「止まる」「動く」などの案内があると、よりスムーズに歩けると思いました。

実証実験中とのことで、まだまだ課題もたくさんありますが、スーツケースが私たちを目的地まで安全に連れて行ってくれる。そんな未来が1日も早く来ることを心待ちにしています。

 

関連ページ

一般社団法人 次世代移動支援技術開発コンソーシアム

https://caamp.jp/

 


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