[2025年8月配信]
今回はJA教育研究会の浅田寿展(あさだ・としのぶ)さんに、作成されている様々な外部スイッチ(アクセシビリティスイッチ、以下「スイッチ」とする)にまつわる話を聞きましたので、その内容を紹介します。
スイッチを押すと音楽が流れる絵本、スイッチを押すとバイバイと手を振るお手振りマシーン、瞬きをするスイッチなどで自走する乗用おもちゃ(モッティ―)など。
これらの機器はすべて重度障がい児向けに浅田さんが改良されたり作られたりしたものです。
インタビューに伺った北神戸スイッチルームには浅田さんが手がけられた教材として用いられるスイッチ類やおもちゃなどが所狭しと並べられています。
浅田さんは、技術・家庭科の技術の教員として勤められ、退職後に技術の教材開発をすることを目的にJA教育研究会を立ち上げられ、主に下記の3つの活動を行っています。
① 技術・家庭科の技術の教材づくり
② 情報教育関係の教材づくり
③ 重度肢体不自由児を対象とした特別支援教育関連の教材づくり
浅田さんは現役時代には通常学級の教員をされていたため、障がい児とのかかわりは少なかったそうです。退職後、ある特別支援学校の教員からBDアダプタ(スイッチを押している間だけ電気が流れるようにするもの)の作り方を教えてほしいと頼まれたことがきっかけで、特別支援教育に携わるようになりました。
「恥ずかしながら当時は、BDアダプタというものを知りませんでした。ネットで調べてみると、必要なものをそろえれば簡単に作れることがわかりました。
BDアダプタを作成する過程で多くの教育関係者に連絡を取り、教えていただき、たくさんの新しいつながりが生まれました。
その中で、教員がスイッチを自作されていることを知り、私もスイッチ類を作るようになりました。」(浅田さん)
当初は作り方をネットで公開するのみで販売はされていなかったそうです。
しかし、スイッチを自分で作れない方からの問い合わせもあり、作成したスイッチを販売するようになりました。
作成されているスイッチ類には、①単純な材料を使用、②簡単な構造で作る、③壊れてもすぐに直せる、という3つの特徴があります。
「子どもたちは、家庭、学校、放課後デイサービスなど、複数の場所で時間を過ごします。
高価なスイッチ類を各場所で購入してもらうことはなかなかできません。
安価で、壊れても簡単に直せて、すぐ使えるものなら、予備も含めて必要な数だけ買ってもらいやすくなります。
また、子どもは、気に入らないと投げてしまったり、ケーブルを引っ張ったりして壊してしまうこともあります。
ケーブルがはずれたら、ハンダごてでつなぎ直せば、また使えます。うちでは少々乱暴に扱っても壊れないスイッチも作っていますよ。」(浅田さん)
一般的なBDアダプタは高価なため、壊れて使えなくなると困るので、購入していてもあまり活用していないという学校もあるそうです。
浅田さんが作成されているBDアダプタは、安価なうえ、断線したり、基板から線が外れたりしても電気を通す銅製のテープを貼ることで再度でも使えるように設計されています。
これなら、子どもたちが何回ケーブルを引っ張って抜いても簡単に修理でき、使うことができます。
「壊れるのは想定内です。作り手は、壊れたら簡単に修理できるものを作ればいいんです。」(浅田さん)
壊れたものを自分で修理できない方は、JA教育研究会に送ると修理をして送ってくださるそうです。(送料・必要経費は自己負担)
浅田さんは教員から得たリクエストをもとに様々なものを作られています。
例えば、市販の音声録音再生装置(VOCA)にスイッチを付けられるように改造し、教員やご家族が録音した「がんばれよー!」「こんにちは!」「ありがとう!」などの言葉が流れるようにしたものがあります。これは、子どもが自分の意志でスイッチを押すことで言葉を発することができるように工夫したものです。
音声録音再生装置は近年ペットのトレーニングに活用できるとして安いものも売られるようになったので、比較的安価に作れるそうです。
他にも、リモートシャッターにスイッチを付けられるようにして子どもたちが自分で写真を撮れるようにしたもの、小型の扇風機にスイッチを付けられるようにして自分で扇風機のオン・オフや風量を調整できるようにしたもの、スイッチを押すと太鼓がたたけるようにしたものなどがあります。
「教員が子どもたちにしてほしいけれど、難しいだろうなあと思っていることを実現するお手伝いをしています。スイッチを使えるようになるまでが大変で、あきらめてしまう子どもさんや支援の方々もいますが、子どもたちがスイッチを使うことで何か面白いことができる、世界が広がるということを知って欲しいです。」(浅田さん)
浅田さんは、特別支援教育関係の教員が集まる場でスイッチを作成するワークショップを開催するなど、スイッチ類の機器の作成や修理ができる人材の育成にも力を入れられています。
ワークショップでは、100均などで手に入る安い材料や、インターネットで簡単に買えるものなどを使い、安価で簡単に作成する方法を紹介されています。
「自分が作ったものを広めるより、作れる人、直せる人を増やす方がいいと思っています。」(浅田さん)
現在、教員が現場で工夫できるようにお手振りマシーンの土台となる、左右に動作する機器の販売に向けて準備を進められています。この土台があれば、お手振りマシーンやもぐらたたき、太鼓たたきなど、必要に応じて自由にアレンジできるようになるそうです。
「機器のフィッティングなどは日々子どもたちと接している教員にお願いし、私はものづくりを専門として、これからも子供たちの可能性を広げるためにも、要望があれば作っていきます!」浅田さんが笑顔で話してくださいました。
インタビューを通じ、「できない」から「できる」へと子どもたちを導くため、様々な材料を使い、工夫されて機器を作られている浅田さんの熱い思いを感じ取ることができました。
ちょっとした工夫で音を鳴らせるようになったり、自分の意志で移動できるようになったり、太鼓をたたいて音楽の授業に参加したり。
子どもたちも「自分でできること」の喜びをかみしめていることでしょう。
今度はどんなものができるのか。これからも楽しみです。
今回もインタビューの様子を掲載しました。
ご興味のある方は下記URLをご参照ください。
http://www.itsapoot.jp/mailmaga/interview202508.html
【参考サイト】
JA教育研究会
https://www.ne.jp/asahi/ja/asd/jaera/
本文は以上です。