[2025年11月配信]
今回は、LED付き音響装置信号を制作している篠原電機株式会社の担当者 兼崎 暁美(かねさき・あけみ)さんにLED付き音響装置信号の現状などについてインタビューをしましたので、その内容を紹介します。
篠原電機株式会社は、1961年に大阪で創業した電気メーカーです。配電盤・制御盤機材などの販売、データセンターソリューション事業、鉄道・交通信号機材の開発・販売など、幅広い事業を展開しています。
大阪府内では、令和6年度末現在、1,670か所(大阪府警のホームページより)に音の出る信号機が設置されています。そのうち、18か所で篠原電機のLED付き音響装置信号が設置されており、その中の5か所には、信号が青になると振動するタイプが設置されています。なお、LED付き音響装置信号が設置されていない箇所にある音の出る信号機は、信号が青になったときに音を鳴らす「音響ポール」が設置されています。
大阪府警のホームページによると、大阪府内では、交差点のうち交通量の多い幅の広い道路の横断歩道は、「カッコー」、交通量の少ない幅の狭い道路の横断歩道は、「ピヨピヨ」と音を鳴らすことで、視覚障がい者に交差点を渡るタイミングを知らせているそうです。
兼崎さんにLED付き音響装置信号の特徴について聞きました。
「弊社のLED付き音響装置信号は、歩行者信号機と直接つながっているので、常に正しい情報を伝えることができます。また、子ども、自転車利用者、高齢者、車いすユーザーなど、目線の位置が低い人でも目線を上げずに信号の色が見分けられるように音響ポールにLEDの信号がついています。赤がシカク、青がマルで表示されているので、色の識別が難しい方にも安心して交差点をわたっていただけるように設計しています。これにより、歩行者が巻き込まれる交通事故の件数が減少しているそうです。
そして、最大の特徴は、信号が青になると、音響ポールが振動することです。そのため、盲ろう者が自分で信号の色を判別できるようになりました。盲ろう者の中には、通訳・介助者と一緒に歩いているけれど、信号機を触り、自分で信号の色を確かめてから交差点を渡っている方もいます。
自分で確かめられるなら、そうしたいですよね。」
兼崎さんは30年ほど前に篠原電機株式会社に入社され、音響装置信号をはじめとする製品開発に携わられていました。そこで課題となったのが、開発したLED付き音響装置信号の認知度をどう上げていくか ということでした。
視覚障がい者に関連する団体や展示会にデモ機とともに出向き、多くの人に体験してもらい、直接当事者から要望を聞き、作り上げてきました。
① 車いすユーザーや子どもが押しやすいように低い位置に押しボタンを設置
② 音響ポールの上部に交差点の十字の凹凸を付け、音が鳴ったら進む方向を矢印で示すデザインの導入
③ 高さ1mの位置に音響スピーカーを設置することで、音を頼りに交差点を渡る方への音の聞き取りやすさを実現
などは、当事者の意見をもとに検証を重ねて導入されたものです。
「弊社は、『われわれは、顧客中心主義に徹し、顧客のニーズを開発し、顧客の問題を解決する』を経営理念に掲げています。この理念に基づき、当事者の声に耳を傾け、LED付き音響装置信号を作り上げてきました。」(兼崎さん)
現在も、LED付き音響装置信号の普及に向けて兼崎さんは尽力されています。
兼崎さんによると、東京などでは、「音響信号」や「高齢者等感応式信号」(青信号延長)など一つの交差点に複数の信号ボタンが用意されているそうです。これは、視覚障がい者にとって、どこにボタンがあるのか、どのボタンが何のボタンか、どれを押すと音が流れるのか、その土地に慣れていないとわかりにくい構造になっています。
その点、このLED付き音響装置信号は、交差点の角に高さ120cmの円柱型で1つにまとめられた信号機が、ポールのように地面から直接立っているので、確実に白杖などで見つけることができます。
「設置者は、予算や自分たちの感覚にとらわれ、『ものの重要性』に目が届いていません。しかし、信号は人の命がかかっているんです。一つ間違えれば、大事故です。
だからこそ、当事者の意見に耳を傾け、当事者のことを理解し、だれもが安心・安全にわたれる信号機を設置してほしいです。
警察をはじめ、関係者がLED付き音響装置信号機を付けることで誰もが安心・安全に交差点を渡ることができる重要なものだと認識してくれれば、もっと設置個所も増えてくると思います。」(兼崎さん)
早速、味原町の交差点に設置されているLED付き音響装置信号を体験してみました。
音が鳴ると、LED付き音響装置信号が振動するので、初めて訪れる交差点でも、「ピヨピヨ」または「カッコー」のどちらの音が鳴ったときに渡ればよいのか、確実にわかるので安心です。
また、音が鳴りやんだ後でも信号が青の間は振動し続けているため、渡り終えた後にLED付き音響装置信号に触れることで、信号が青の間に渡れたのか、それとも残念ながら途中で赤になってしまっていたのか、状況を確認することができます。 さらに、青信号が点滅しているときには、点滅に合わせてLED付き音響装置信号もブッ、ブッと振動して、リアルタイムに信号の状況を知らせてくれるのが新鮮で魅力的でした。
また、早朝や夜間など音が鳴らない時間帯でも青になると振動で知らせてくれるので、どの時間帯に利用しても信号の色がわかるという点がありがたいです。
兼崎さんによると、通常の音響ポールに備え付けられている押しボタンは、音が鳴らない時間帯に1回だけ音を鳴らすためにつけられているそうですが、LED付き音響装置信号は、警察に要望し、警察が認可すれば、青信号の時間延長ができるかもしれないとおっしゃっていました。
実際に音を聞きながら交差点をわたってみると、高さ1mと耳に近い位置に音響スピーカーが付けられているので、音が周囲に飛び散らず、音を頼りに比較的スムーズに渡ることができました。
しかし、道路幅が広く、途中に中央分離帯がある場所などでは、注意が必要です。交差点の両岸の歩道に設置されているLED付き音響装置信号機同士の距離が遠く、方向を見失い、もう少しで停止している車にぶつかりそうになりました。
さらに、何とか歩道にたどり着いたと思いきや、そこはまさかの中央分離帯! 危うく車にはねられそうになるというハプニングもありました。
このような幅の広い道路では、中央分離帯に音だけを出す音響ポールがあるとより安心ですね。実際に中央分離帯に音響ポールがある幅の広い道路をわたってみたところ、音を頼りに、横断歩道の白線からはみ出ることなく、無事に渡ることができました。
もちろん、交差点上にエスコートゾーンがあれば、もっと安心して渡ることができます。エスコートゾーンがあると歩くスピードも速くなります。調子に乗って中央分離帯のある幅の広い交差点をわたっていたら、歩道に着いた時には信号は赤! というハプニングもありましたが…。
これも歩道についた後にLED付き音響装置信号を触ることで、振動していれば、青の間に渡り切れた、振動していなければ、危険なことに途中で赤になっていたということがわかるので、以後同じ道路を渡る際には、一度中央分離帯で停止するなど、安全に交差点を渡るための判断材料となります。
音の出る信号機がない場所では、スマートフォンにインストールしている信号識別アプリを使用して、交差点を渡ることがあります。 しかし、これは100%正しい情報が与えられている保証はありません。スマートフォンのカメラを正しい位置に向けているのか、カメラに映し出されている情報は誤っていないか、アプリから伝えられる信号の色は本当に正しいのか…。不安になることもあります。
その点、LED付き音響装置信号は、信号機そのものであるため、音と振動で確実に信号の色を確認できるので、安全性と安心感が高まります。
「スマートフォンをかざして、信号を確認して渡るという行為は、その時のネット環境にも左右されますし、アプリが正しく機能しているかわからないこともあると思います。
そもそも、信号は公共のものであるのに、個人がスマートフォンを使って確かめないといけないというのもおかしいですよね。そういう意味でも、スマートフォンアプリは便利だけれど、課題もたくさんあると思います。その点、LEDつき音響装置信号は、そこに行けば確実にわかる。
晴眼者と同じ環境で、信号機の音を聞いて、信号機を触って、本当に信頼できる情報を手に入れられる。この当たり前のことができることがこの信号機の一番の魅力だと思っています。」(兼崎さん)
最後に兼崎さんが熱く話してくれました。
「LED付き音響装置信号は、子ども・高齢者・車いすユーザーなど多くの人が信号を認識しやすいデザインになっています。音の出る信号機というと恩恵を受けるのは視覚障がい者だけと思われがちですが、このLED付き音響信号機を設置することで、より多くの方が、安心・安全に交差点をわたれるようになると思っています。見えて、聞こえて、触れる信号。魅力的ではありませんか!
LED付き音響装置信号の普及には、視覚障がい者を含む当事者からその必要性について声を上げていっていただきたいです。そして、LED付き音響装置信号は、安全・安心に交差点を渡るために必要なものだと、警察関係者にしっかりと理解していただきたいです。
信号は人の命がかかっています。信号を命がけで渡るなんておかしいですよね。当事者が求めている形で、みんなが安心・安全にわたれる信号機を設置していただきたいです。
そのためにも関係機関に要望を上げ続けていくことが大切です。
そうしなければ、ものの重要性もわかってもらえません。LED付き音響装置信号が普及し、だれもが安心・安全に交差点を渡れるように、ぜひ声を上げ続けてください。」
私も一人の視覚障がい者として、改めてLED付き音響装置信号の重要性を身をもって体感しました。1か所でも多く、安心・安全に渡れる交差点が増えるように、声を上げ続けていきたいと思います。
今回も信号機を利用した動画を掲載しています。
ご興味のある方はぜひご覧ください。
http://www.itsapoot.jp/mailmaga/ATStrial.html
【参考】
篠原電機株式会社
https://www.shinohara-elec.co.jp/(別ウィンドウで開きます)
高齢者・視覚障がい者用LED付音響装置|交通信号
https://www.shinohara-elec.co.jp/products/ccat_list.php?bun=50&bcat=516(別ウィンドウで開きます)
本文は以上です。